5月末に総務省から通信利用動向調査の最新版が公開された。年1回のペースで公開される、この調査結果は参考になるデータが満載で、分析屋の筆者は毎年重宝している。中身はタイトル通り「情報通信利用動向」、つまり個人や企業のインターネット利用状況を網羅した内容だ。
その中に「過去1年間にインターネットで利用した機能・サービスと目的・用途」という項目があり「商品・サービスの購入・取引」の回答欄がある。これはまさにEC利用率そのものである。
最新版のデータではこのEC利用率は58.9%だった。日本人の58.9%がECで買い物をしたという理解だ。とすれば過去はどうだったか気になる。
そこで2015年から直近までの推移をグラフ化してみた。2015~2019年は50%前後で横ばいだが、コロナ禍の2020年に56.5%に上昇した。巣ごもり消費の影響は確かに数字に表れている。
だが全体感でみればその点を除くとEC利用率に大きな変化は見られない。言い換えればEC利用人口は長年増えていないことを意味している。
「CRM重視」に納得
EC利用人口が増えていないという事実は、EC事業者の立場でいえば新規顧客獲得が困難なことに他ならない。コロナ禍でEC市場への新規参入事業者が増えて確実に競争は激化している。
広告単価も上昇しており新規顧客獲得のコスパが悪くなっているという話も最近よく耳にする。そうなると新規顧客獲得よりも既存顧客維持に経営資源を集中したほうが収益性の面でメリットがあるだろう。そう考えるEC事業者が多くいることは容易に想像できる。
そう考えていたら日本ネット経済新聞1月12日号での新春企画「アンケートで聞く2023年のEC業界動向」の結果を思い出した。コスト削減、業務効率化、OMO、新規顧客の販促、商品戦略といった項目を押しのけて最も多くの回答を集めたのが「CRM施策」。
巣ごもり消費の反動がEC市場を直撃していることもあってか、CRM施策を重視したいとする事業者が多い点には納得する。EC利用率が長年停滞していることとCRM施策を重視したいとする傾向は流れが一致する事象だ。