2023.05.08

【データに見る「ECの地殻変動」】<第14回>潮目が変わるネット広告業界

今年2月に電通が「2022年 日本の広告費」を公開した。総広告費は7兆1021億円と過去最高額を記録。7兆円を突破したのは2007年以来15年ぶりである。

これだけ長期間過去最高額を更新しなかったケースは珍しい。総広告費が伸び悩んだ理由は、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2020年のコロナ拡大と、広告業界にとって逆風の出来事が相次いだからだろう。それらを乗り越えての市場規模回復だ。広告業界の方々にとってポジティブな話題だと想像する。

さて主題は総広告費ではなくネット広告費。2022年は前年比14.3%増の3兆912億円と3兆円台に乗った。総広告費の市場規模は15年ぶりに過去最高となったが、この間ネット広告費の市場規模は一度も前年割れすることなく一貫して拡大を続けてきた。

2019年にはテレビメディア広告費を逆転し2021年にはついにテレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4媒体広告費をも抜き去った。なるほどネット広告の勢いは全く衰えていないようだ。別角度からもう少し掘り下げてみよう。

個人消費額全体に占めるネット広告費の比率を算出してみた。分かりやすくいえば個人消費に対し、ネット広告費がどれくらい投入されたかというマクロレベルでの計算である。

2022年の個人消費額を分母、ネット広告費を分子とし計算すると1.08%となった。つまり10万円の個人消費に対し、1080円のネット広告費が投入された計算になる。この値が高いのか低いのかを理解するために、同様の計算を米国のデータでも行い時系列で日米を比較してみた。



結果はグラフの通り。両国とも年々、比率が上昇しており、かつ米国の方が日本よりも値が高い。両国とも個人消費においてネット広告の重要性が日に日に増している証左だろう。

米国の広告費に関するデータは複数あり、出所によって結果に多少の差異が出るのだが、いずれのデータでもこの傾向は変わらない。なお電通のリリース「2022年 日本の広告費 インターネット広告媒体費詳細分析」によると、2023年もさらに国内のネット広告費は拡大するとしている。


企業心理は後ろ向き


他方、CARTACOMMUNICATIONS(カルタコミュニケーションズ)による「2022年下期インターネット広告市場動向」では、2022年下期のネット広告費は横ばいか減少とアンケートで回答した率が過半数に達している。

同調査では、広告千回表示ごとの費用を意味するCPM(Cost Per Mille)が記載されているが、2022年は前年比9.48%増となっている。まさに費用対効果が問われている状況と見る。CPMの上昇がネット広告の投下マインドを押し下げていると推測される。

話を整理すると市場規模が拡大する一方、個々の企業レベルではネガティブな傾向が見られるということだ。この事象はネット広告を新たに行った企業数の増加が、広告単価上昇につながった結果と想像する。

サードパーティクッキー規制などネット広告には気になる要素もある。今まさに潮目が変わろうとしている状況かもしれない。

ネット広告の手法などのテクニカルな変化もさることながら、思い切ってビジネスモデルの改革が必要かもしれないと個人的には予見している。












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