広告の「攻め」のラインが明確に
岡山地裁の判決を受け、薬機法や景表法に詳しい専門家の間でも、動揺が広がっている。この判決がスタンダードになったとすれば、医薬品やトクホ、機能性表示食品でなくても、効能効果をうたえる可能性が出てくるからだ。一定程度の合理的根拠さえ示せれば、インシップと同レベルの効能効果を広告で表示することの違法性が問えなくなってしまう可能性がある。
薬事法広告研究所の稲留万希子氏は、「機能性表示食品の関与成分であれば、機能性表示食品にわざわざしなくても、効果をうたえてしまうのではないか」としている。
東京神谷町綜合法律事務所の成眞海(せい・しんかい)弁護士は、「(今回の判決に照らせば、)機能性表示食品レベルの根拠資料があれば、『合理的根拠がない』とは言いづらい。機能性表示食品制度の負の側面が出た」とコメントしている。
薬機法や景表法に詳しい薬事コンサルタントの関山翔太氏は、「裁判所が本件表示を医薬品的な効能効果と認めなかったことは、行政の執行や、事業者の広告表示の決定において、影響を与えると思う。『これくらいは攻めてもいいのか』というラインが分かった」と話す。
関山氏は、裁判所が「『医薬品的な効能効果がある』と表示するものである」と認めたクロレラ判決を例に、①の争点が認められなかったことが、インシップが勝利したカギとなった」と解説している。
控訴審によっては事業者に有利に?
岡山地裁の判決は、事業者にとって有利なものだった。一方で、消費者庁や都道府県がただちに、景表法の執行の手を緩めるとは言えないようだ。
関山氏は、「判決文を見る限り、今回提出された証拠は、本件サプリを使って実証された改善効果ではない。措置命令に対する合理的根拠としては認められない可能性が高い」と話す。
消費者庁は、景表法の執行について、「言葉のみからではなく、表示の内容全体の印象で判断する」旨を示しているからだという。
一方で、名川・岡村法律事務所の中山明智弁護士は、「この判例を踏まえると、複数のエビデンスが存在するケースについては、行政側もこれまで以上にエビデンスの審査に慎重になる可能性はある」と話している。
消費者庁は、この判決について聞いた質問に対し、「あくまで一般論だが、法規範を参考にすることはある。最高裁判決は特に参考にする」(南晴雅表示対策課長)とコメントしている。