2022.04.22

【データに見る「ECの地殻変動」】<第2回>EC化率の国際比較に思うこれからの期待

経産省の電子商取引市場調査を長年担当してきたが、その間、常にEC化率に関する話題には敏感であった。同担当を退いた今もそれは変わらない。

EC化率に関する議論はさまざまあり、眺めていると興味深いものも多い。しかしその中で「日本は諸外国よりEC化率が低いのでEC市場規模の伸び代が大きい」との見解を時折見聞きする。EC化率の国際比較は日本の立ち位置を知る上で重要だ。

また、日本のEC市場には確かに伸び代はあるだろう。しかし間違いとも言えないが、EC化率が低いのでEC市場の伸び代があると言い切ってもよいものだろうか(でも気持ちは分かる)。


米国、中国との差は何か?


2020年のEC化率は8.08%。このペースだと2023年には日本も10%を突破すると予測する。

ところが複数のリソースを基にした筆者の推定ではすでに米国は約15%、中国と英国は30%程度。この差は何か?

日本の場合、諸外国と比較し生活圏内に小売網が密に整備されていることが差を生んでいる主因と考える。米国労働省の統計によれば、同国の小売店舗数は105万7733店(2021年第3四半期時点)。

一方、日本の場合、2016年時点と少し古いデータだが政府統計の経済センサスによれば小売業の事業所数は99万246と米国とほぼ同じだ。米国の人口は日本の約2.6倍、面積は26倍。日本の小売網の密集度を容易に理解できるだろう。



根拠をもう一点。経産省商業動態統計によると、2021年の小売業の販売額はECも含め150兆円。一方で卸売業は401兆円。卸売業にはBtoBや生産財の取引も含まれているので注意が必要だが、それを差し引いても卸売業の存在感は際立っている。

日本では戦後復興から長年の時を経て現在のサプライチェーンの構造が構築された。この構造はいびつではなく市場原理に基づき時間をかけて最適化された形と捉えるのが正しい見方だろう。卸売業による最適な製品供給態勢が日本の小売業の販売力を支えているといえる。

サッカーに例えるならばFW(小売業)に対してパスを供給する重厚なMF陣(卸売業)が構えているといったイメージに近い。以上が「EC化率の国際比較による伸び代論」に少しだけ待ったをかけたい理由である。

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