2024.06.20

【人とAIの力を生かす】オンワードデジタルラボ 山下哲社長「ブランド力とOMO施策で客単価増」

オンワードデジタルラボ 山下哲社長


オンワードホールディングス(HD)はOMO施策に注力し、2024年2月期の国内EC売上高は前期比6.5%増となった。ECサイトの在庫を実店舗に取り寄せて試着・購入できるサービス「クリック&トライ」の導入店舗を拡大したことが、成長要因の1つになっているという。2023年の振り返りや今後の展望について、ECサイト「オンワード・クローゼット」の運営・管理を手がけるオンワードデジタルラボの山下哲社長に聞いた。


これまでブランドとして積み重ねてきた信頼感やOMO施策が奏功し、客単価が上がったことが増収につながった。オンワードの強みであり、根幹にあるのは商品力と接客といった人の力。AIを含むオンラインの技術とかけ合わせることで、顧客の体験価値も高めている。

OMO施策については、「オンワード・クローゼット」の商品を実店舗で試着・購入できるサービス「クリック&トライ」と、ブランド複合型店舗「オンワード・クローゼットセレクト」を展開している。このようにECサイトの情報量と実店舗の接客の良さをかけ合わせることで、より支持されるブランド群に成長している。

スタッフ(ファッションスタイリスト)のSNS投稿や実店舗の接客からECサイトへ送客する流れもできている。ブランドを横断した商品の提案は、顧客から好評だ。

SNS運用に関しては、ファッションスタイリストのコーディネートコンテンツが人気だ。特に着こなしを解説する投稿は反応が良かった。このような顧客とのつながりは、接客にも生かせている。


タイパを追求、読み物としての魅力も


技術面では、AIの活用にも力を入れている。顧客の行動やデータから、趣味や嗜好といった感性を踏まえたレコメンドを表示している。単一的なお薦めだけでなく、「カジュアルに着こなしたいのか」「通勤目的で、きれいめな服を求めているのか」など、個人に踏み込んだ提案をしている。各ツールで収集したデータは、トレンドの把握や次のプロダクトの開発に生かしている。

「オンワード・クローゼット」は、自社商品だけではなく、雑貨などの他社商品も掲載するマーケットプレイス型のサイトだ。ライフスタイルをトータルで提案することで、1人当たりの購買数を増やすのが狙いの1つ。人が1日のうちにデジタルに触れる時間には限りがあり、ECサイトはSNSや動画サイトとその時間を取り合うことになる。そのため「オンワード・クローゼット」では、タイムパフォーマンスの高さを追究し、商品数が多いながらも、手軽に見てスムーズに買える環境を整えている。滞在時間を自然に伸ばすためには、読み物といったコンテンツ作りにもこだわり、雑誌のような世界観を表現している。

「オンワード・クローゼット」として、まだできることはたくさんあると思っている。例えば検索において、言語化しにくいニーズに応えられるような仕組みを作っている。今後は「あの芸能人が着ていそうな服」といった、ニュアンスでも商品を検索できるようにしたいと思う。商品に出会う「とっかかり」を増やすことで、さらなる購買につなげたい。

技術の発展やライフスタイルの変化に適合し、より顧客にとっての体験価値を高めていきたい。




【記者の目】
山下氏の「CX(顧客体験価値)向上のためのDX」という言葉が印象的だった。DXとは「デジタル化」を意味することが多く、「効率化」といった言葉がセットになりがちだ。SNSやショート動画をなんとなく見る毎日で、ECサイトをしっかりとチェックする時間は、意外と取りにくい。

オンワードはその状況を受け入れて、実店舗との連携やサイト内の仕組みを細かく調整することで、競争力を高めているという。「なぜDXをするのか?」という基本に立ち返り、戦略的に進めることが成長の鍵になるのだと思った。






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