2024.02.16

【専門家対談】購入後のエクスペリエンスでAmazonを超える<其の二>


Eコマース・オムニチャネルコマースにおいて、CX(カスタマーエクスペリエンス)の重要性が再認識されるようになっている。リテンションの重要性の認識が高まる中、CXのトレンドについて、Innovation&Communication の吉村典也代表と、シナブルの曽川雅史執行役員に聞いた。聞き手は、「日本ネット経済新聞」を発行する日本流通産業新聞社の星野耕介記者が務めた。第2回目は、購入後体験としての「配送状況メール」などについて紹介する。



<第1回の対談はこちら>
https://netkeizai.com/articles/detail/10707


購入後体験のはじまりの一歩、トランザクションメールでのCX活用


曽川:Amazonは、顧客が、受け取り時間や受け取り方法をセルフサービスで選択・変更できるという利便性を提供しています。

それと同じように、Apple Store オンラインも、商品の購入からお届けに至るまでに、さまざまな顧客感情を揺さぶる重要な瞬間を提供していることが、よく知られています。配送に関するステータスが、マイページ上で細かく確認でき、希望すれば通知を受け取ることもできます。

こうした配送に関する顧客体験は、AmazonとApple Storeという、成功している二つの企業で提供している購入後体験です。そのことからも、EC企業にとっては実施するべき施策だといえます。

EmailやLINEなどのメッセンジャー機能で配送に関するプロセス通知を行うことは、「トランザクション(取引)コミュニケーション」と言われています。

顧客が購入した後の、期待と関心が一番高い瞬間を捉えて、エンゲージメントを高めていく施策です。

ここで、キラーコンテンツとして、配送状況(商品追跡情報)を顧客が簡単に認識できる情報リンクを設置する方法があります。Appleのように、ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便の追跡サイトに飛ばす方法もありますし、Amazonのように、自社コマースサイト内の情報が集約されたパーソナルページで追跡コンテンツを提供する方法もありますから、アクションは分かれます。

どちらのパターンも共通しているのは、トランザクションメールを、顧客の購入後体験としていることです。顧客とより強固な関係を構築するために、一番効果のあるコミュニケーションチャネルとして認識し、活用しているのです。

そこにどのようなコンテンツを配信するかは、CRMコミュニケーションと同様の考え方になります。

吉村:今まで、この配送状況を知らせるメールは、日本の自社ドメインのカートなどでは、事務的なものとして配信していました。せいぜい、テンプレート化されたレコメンデーションとして実施しているくらいでした。

この配送状況を知らせるメールから、コマースサイトのパーソナルページや、マイページにリンクアクションを行うことができます。マーケティングオートメーションの機能を活用すると、新規顧客であれば、類似オーディエンスからの商品やコンテンツのレコメンデーションができます。

既存顧客であれば、購入履歴などを踏まえてのレコメンデーションが、Eメールなどのメッセ―ジだけでなく、パーソナルページでも可能になります。
 

 

数字でも明らかになる、購入後の顧客体験の重要性


星野
:Amazon Apple以外に成功事例はありますか。

曽川:NIKEなどの多くのアスレジャーブランド(※)などでも体験できます。

このサービスを活用しているコマース事業者に共通しているのは、商品購入後の顧客のエンゲージメント率の高さです。

日本でも、商品の出荷に関するメールの開封率は、平均で70%を越えています。配送通知の連絡や、ブランドのパーソナルアカウントページでの追跡ページで提供されている各コンテンツのクリック率が非常に高いのです。そこからアクセスしたストアでのコンバージョン率が、マーケティングメールの数値を大きく上回ることが多いとのデータもあります。ストア平均の2~3倍の数字が出ることもあります。

追跡ページなどの「顧客購入後体験」に触れた顧客が、その他の顧客と比べてどのような行動の違いがあるのか分析したところ、圧倒的に高い再購入率を誇っています。当然ですが、購入金額なども高くなる傾向があることが判りました。

※アスレジャーブランドとは…アスレチック(運動競技)とレジャー(余興)を組み合わせた造語。休日にジムでエクササイズをするようなスポーツウェアを取り入れた服装。





返品・交換は購入後体験ではない、購入中体験で収益化できる


吉村
:よく混同されているようですが、「返品・交換」は購入後体験の重要な要素と思われがちです。これは、この不幸なことが起こった場合に、プロセスを簡単にするということです。

ですが、「返品・交換」は、顧客にとっては「安心保険」であり、あるべきプロセスです。一方、小売企業やブランドにとってはコストであることは間違いありません。

そのコストを、「顧客リテンションコスト」として定義することが大切ということです。

しかし、コストのままではいけませんので、返品・交換プロセスのコストダウンをすることは当然です。収益化のために、リコマース(再販売)を通じて、新規の顧客むけのマーケットプレイスを提供することなどを実施するべきです。

曽川:返品・交換プロセスでも、購入と同様にトランザクションメールは発生します。

ここでもエンゲージメントを高めることができます。返品・交換の理由を取得するだけではなく、返金ではなく、ECサイト限定のポイントのような「ストアクレジット」を導入してエンゲージメントを高めることが重要なポイントです。

そして、グレーサイドの顧客にはコミュニケーションコンテンツやタイミングを変えていくことをします。

ある外資ブランドの事例ではこのプロセスを導入することで、返品率が数十%から数%に激減しました。

(つづく)




<取材記者>
「日本ネット経済新聞」記者 星野耕介


<対談スピーカー>
■株式会社シナブル 執行役員 曽川 雅史



(プロフィール)
大阪本社のクラウドCRMベンダーにて法人営業でトップセールスを達成後、同社のウェブマーケティングを担当。子会社では広告事業の立ち上げに奔走。その後、2年間の個人事業主期間を経て、福岡本社のウェブコンサルティング会社へ入社。大手企業への法人営業に従事。2020年シナブル入社。これまでの経験を活かし、EC売上を向上するための顧客分析と施策提案を行っている。ウェブ接客やCRM、レコメンドエンジン、検索などの機能を一つのプラットフォームで提供することで、導入企業がデジタル施策を実現する労力やコストを削減することに貢献している。
 

■Innovation&Communication 吉村典也代表



(プロフィール)
製造業向けコンサルティング会社や外資系システム会社などを経て、コンサルタントとして独立。通販・Eコマース事業、CRM、フルフィルメントをWF設計・運用までを顧客視点・スタッフ視点で支援している。やずやグループが開発した「通販基幹 CRMシステム」の外販導入サポート業務で出会った事業者の課題を通じて、日本のコマースビジネスには成長の可能性、未知のカテゴリーがあると確信した。1社でも多くの企業の事業をグロースさせるためのアドバイスやサポートを実施している。






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