2022.12.05

【連載〈第6回〉】CRMの効果を決めるのは?購入の意思決定導線の改善が要(かなめ)


私、工藤一朗(くどう・いちろう)が代表取締役を務める株式会社ライフェックスではこれまで、通販・ECをはじめとした、数多くの企業のブランディングの構築から新規獲得、CRMまでを一気通貫で支援し、成功に導いてきた。この連載では、アフターコロナの新規獲得に関するノウハウを、余すところなくお伝えしていきたい。


前回はP2Cの事例などに触れながら広告以外の新規獲得の手法についてお伝えした。
【前回記事リンク:https://netkeizai.com/articles/detail/7346

広告に頼らない新規獲得は、認知フェーズでのPRやSNS発信から、自社サイトへの訪問、検討、再訪などを経て、購入の意思決定が起こる流れになる。その購入の意思決定の導線をどのように考え、意識的に設計するかが重要だ。

今回は、購入の意思決定の導線をテーマにお伝えしていく。


購入の意思決定は情緒的価値を意識する


当社がブランディング構築を支援する際のブランディング要素の一つに、「購入の意思決定」という要素がある。この項目では、「なぜ顧客がこれを買おうと思ったのか」という理由をしっかりと言語化していこう。この言語化ができているか否かは、非常に重要だ。

広告をみた消費者が購買に至る場合、やはり広告に盛り込まれた言葉にかき立てられることが多いのではないだろうか。つまり、商品の機能的優位性や料金的な魅力など、機能的価値に影響を受けていると言える。

もちろん、上記の導線も大事なのだが、より意識すべきは「なんとなく良いと思った」、「これが欲しい」、「使ってみたい」という消費者の衝動的かつ感覚的な欲求である。私はこうした欲求が生まれる要素を「情緒的価値」と伝えている。

「情緒的価値」とは、聞き慣れない言葉かもしれないが、十分に人を動かす力を持っている。

それを強く感じたのは、着物販売の事業に関わっていたときの経験だ。着物は高価であるため、着物だけを見てすぐに購入してくれる人はごくわずかだ。その、数百万円もする着物の購入に至る意思決定のメカニズムや変遷を目の当たりにしてきたが、そこには「情緒的価値」が明らかに存在していた。

着物に興味を持ってくれたお客さまには、まずは柄、素材、歴史などの情報を説明する。しかしそれだけでは、購入の決定打にはならない。多くの顧客が購入を決意するタイミング、それは「試着」なのである。実際に身につけ、手触りを感じ、鏡に映った自分の姿を見る。これにより気持ちが高まり、購入を決断する。情報ではなく情緒によって、背中を押されるのだ。

これは着物に限った話ではない。商品や広告を見たときの反応でも同じだと言える。最初は購入意欲が低くても、写真や実物を見て気持ちが高まったり、作り手のメッセージやストーリーに共感を覚えたりすることで、購入意欲が増進していく。

たとえそれが、数百万円するものであろうとも、購入者は自らが「これは価値がある」と感じれば購入するし、後悔することもない。そのため、またお買い求めいただける「リピーター」にもなってくれる。

つまり、商品やサービスの機能的価値はもちろん、情緒的価値も同時に言語化し伝えていくことが、新規獲得を考えていく際に重要なのだ。


CRMの効果は新規獲得段階からつくっていく


今までお伝えしたのは新規獲得に限った話ではない。機能的価値、情緒的価値それぞれの価値に影響を受け、購入の意思決定のプロセスをしっかり踏んで購入してくれた顧客には、CRMの施策がより有効だ。

言い換えると、広告における機能的価値だけで購買に至った顧客は、ブランドの世界観に惹かれて購買に至ったわけではないので、CRM的な施策が有効でない場合が多いのだ。

ブランドの世界観を好きになり購入に至った顧客は、DMを打ってもひびくし、電話しても喜ばれる。プラスのサイクルの入り口がその時点で形成されることが多い。

「他社で成功したCRM施策を真似してもうまくいかなかった」という話をよく聞くのだが、CRMの施策がひびかないのは、より根幹的な要素の部分の見直しが必要になっていることがあるからだと、私は考えている。

認知の段階からインスタグラムのフォロワーになったり、LINEの友だちになったりといった導線が無数に作られる中で、いかにブランドを認知させ、共感させ、購買に至らしめるかが重要だ。その要は、カスタマージャーニーを描きながら、情緒的価値を感じる顧客体験(CX)をつくれるかにかかっている。


「縦割り型組織」がブランドへの意識を阻む


第4回の記事でも伝えたが、CRMの根幹というのは、顧客関係管理という言葉のごとく、リピート戦略だけを指す言葉ではない。新規獲得とCRMは分離して語られることが多いのだが、SNSの普及により、購買前から広告以外のコミュニティーで商品を認知するケースが非常に多くなっている。今の時代においては、CRMは購買前の認知領域にまで広がっているというのが私の持論だ。

当社の組織でも、CRMチーム、SNSチームと分断されたチーム編成になっていたのだが、やはり重複する部分は多く、マインドも同じだという理由から集約し、CXMチームという形で再編成をした。CXM、つまりカスタマー・エクスペリエンス・マネジメントの略だ。このチームの目指すところは、CX(カスタマーエクスペリエンス)のクオリティーを上げられるようにワークすることだ。

新規獲得とCRMは支援している企業でも分断しがちである。分断しているのが悪いわけではない。部署が新規獲得、CRMと分かれていても、ブランド理解の共通認識のある組織であれば、縦割りでも問題はない。

分断組織の問題は、目指すべきKPI指標が異なることである。

新規獲得はCPO、リピートはリピート率と、指標と重要度が違うから矛盾が起きている。

売上構成比率を見れば、どこにウエートが置かれているかは一目瞭然だ。大抵の会社が新規獲得にかけるウエートが多い。私のこれまでの経験上だと、6対4から8対2の比率になっていることが多い。

これまでは、新規獲得重視のマーケティング戦略でもそれなりの成果が出ていたが、昨今は獲得コストも高騰し、このままの戦略を続けても成長は見込めない。

これから求められるのは、認知の初期段階から一貫性のあるブランディングとCRMを行っていくことだと私は考えている。






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