EC体験をリアルに移管
大多:2021年は店舗とECの中間ともいえる仮想店舗の動きもかなり目立った。2022年も伸びていくのではないかと思う。仮想空間は本当に実店舗に行くかのように自分で操作をして、店舗内を見ることができる。そこからECの購買チャネルにシームレスにつながる。そういった意味では、店舗の体験とECの利便性を両立できている。実店舗で商品を見る、確認する、試乗する、体験する、最終決定はECで行って、商品が家に届く――という導線は増えていくのではないか。
コロナ禍でリアル店舗に打撃があり、その受け皿としてOMOが進んだというところから、さらにもう一歩、高度な体験、接客、購買につながるような、攻めのOMOが2022年以降はより増えていくと考えている。
手塚:ECサイト「.st(ドットエスティ)」を運営しているアダストリアは2021年、OMO型店舗「ドットエスティストア」を東京、千葉、大阪に出店した。その店舗ではECサイトのように複数ブランドのアイテムを横断的に見ることができる。さらに、ECサイトで配信しているリアルタイムのランキングを店内のデジタルサイネージで見られたり、店舗スタッフのコーディネート画像をデジタルサイネージで確認できたりする。もちろん販売スタッフから接客を受けることもできる。こうした取り組みは今後、アパレル業界で流行すると思う。ECサイトの体験をリアルに移管する店舗が増えるのではないか。
ユーザーにとってはECとリアル店舗の体験が共通化されているし、看板の「ドットエスティ」も共通化されているため、よりECとリアル店舗を行き来しやすくなると思う。
三浦:コロナ禍の影響で飲食店の閉店などが相次いでいるため、物件の賃貸料などが安くなっており、実店舗を作ろうとしているEC企業が増えている。オンラインでの体験はどうしても、実店舗でできる体験にはかなわない。ECの運営と並行しながらできるような形で店舗を作って、そこで体験してもらおうという考えの企業が増えている。高価格帯の商品を扱う企業は特にその傾向が大きい。
手塚:ワークマンは2022年から、ウェブ限定で発売し、受け取りは店舗だけという販売手法に本格的に取り組むそうだ。購入意欲を駆り立てるために、アンバサダーと共同開発した商品などをそこに投入するようだ。店舗受け取りが好評なことも踏まえつつ、手応えを得ているアンバサダーマーケティングも掛け合わせて、なるべくリアルに来てもらって、ついで買いとか接客も受けて、よりワークマンのファンになってもらおうという取り組みだと思う。2022年はこうした施策が増えそうだ。
EC専業の企業でも、リアルな接客はできると思う。ECでもスタッフの方がライブ配信を積極的に行っていたり、オンライン接客に取り組んでいたりする企業も多い。顧客とのタッチポイントをより増やしていくというのが、EC専業でもできるOMOだと思う。
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