2020.07.13

【記者コラム】『オンワード』と『ZOZO』の雪解けをもたらした3つの要因

オーダーメイドブランド「KASHIYAMA」はZOZOの「マルチサイズ」サービスを活用

オンワードホールディングス(HD)は7月13日、8月下旬よりZOZOが運営するファッションECモール「ZOZOTOWN」に再出店すると発表しました。さらに、オンワードパーソナルスタイルが展開するオーダーメイドブランド「KASHIYAMA(カシヤマ)」のセットアップスーツをZOZOの持つ体型データを使った「マルチサイズ」にて展開することも明らかにしています。

オンワードHDは有料会員サービス「ZOZO ARIGATO」に反発し、“ZOZO離れ”の急先鋒として「ZOZOTOWN」を退店してから約1年半ぶりの再出店となります。なぜ今、再出店や新たな提携を決断したのか。この背景には3つの要因があると考えています。

要因① 前澤友作氏の不在


そもそも退店の引き金となった有料会員サービス「ZOZO ARIGATO」は2019年5月30日で終了しています。その先導役であった前代表の前澤友作氏も退任しました。以前、アパレルブランドから「ZOZOにセールの時期などをデベロッパーのセール時期などとズラすようにお願いしても聞いてもらえない。ファッションECでZOZO1強というのは良くない状況だ」という声が上がっていました。

「ZOZO ARIGATO」も出店ブランドとの調整もほとんどないまま、サービス提供に踏み切ったことで反発を招きました。ZOZOの独断先行には、前澤元代表のカリスマ性が大きく影響していたと思います。前澤氏が退任していたことで、オンワードHDとしては「今のZOZOならうまく付き合っていける」と考えたのではないでしょうか。

要因② コロナショックの挽回策


新型コロナウイルスはファッション業界に大きな爪痕を残しています。特にリアル店舗中心のブランドは大きなダメージを受けました。各ブランドがEC化を推し進める中で、モール出店は一番手っ取り早い手段です。そのことは「無印良品」が「Amazon」と「楽天市場」に出店したことからも分かると思います。

オンワードHDも自社ECサイトを中心に事業拡大に注力してきました。ただ、自社ECサイトはリアル店舗と連携したオムニチャネルの影響を受けることもあり、まだコロナ禍が収まらない中でその力を思う存分発揮できない状況にあります。新しい顧客との接点として、ファッションEC市場として大きなシェアを握る「ZOZOTOWN」に出店したいと考えるのは自然なことです。

要因③ 「マルチサイズ」の活用


オンワードHDは今回、「ZOZOTOWN」に再出店するだけでなく、オーダーメイドスーツ「KASHIYAMA」の販売においてもZOZOと連携します。オーダーメードスーツは1着目を購入する際に、リアル店舗で採寸する必要があります(出張採寸も一部実施)。ただ、コロナ禍では店舗採寸も出張採寸もサービスが提供しにくい状況です。

ZOZOは採寸サービス「ZOZOSUIT」で培ったサイズデータに加え、「ZOZOTOWN」のユーザーの購買データを持っており、そのサイズへの知見を生かした「マルチサイズ」サービスを提供しております。「マルチサイズ」ではZOZOがサイズを提案し、ブランドがそのサイズに合わせた商品を供給するというスキームとなっています。

オンワードHDにとって、重点事業である「KASHIYAMA」の店舗採寸や出張採寸がしにくい状況で、ZOZOの「マルチサイズ」サービスは喉から手が出るほど魅力的だったのではないでしょうか。

ZOZOの経営体制の転換やコロナショックが、オンワードHDとZOZOの雪解けをもたらしました。重要なのは今後の取り組みです。状況が変わった両者が手を組み、パートナーとして花を咲かせることができるのか、注目したいと思います。

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